ふるさと納税の3つの致命的欠点

政治
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昨今、日本人のビジネス/投資/資産運用系YouTuber・ビジネスコンサルタントがこぞって「ふるさと納税」の利用を推奨しているが、「政治」「マクロ経済」「安全保障」の観点から、「ふるさと納税」には以下で述べる3つの致命的欠点が有る。

総務省|ふるさと納税ポータルサイト
ふるさと納税で日本を元気に!ふるさと納税の意義や納税制度、ふるさと納税の制度改正についてご案内いたします。

これら日本人のビジネス/投資/資産運用系YouTuber・ビジネスコンサルタントもその大半が中下流層であり、無論、彼らの動画等に対してコメントしたりしている視聴者・フォロワーの99%以上が中下流層であるが、「ふるさと納税」のこれら3つの致命的欠点は、自身の身の世話を特定国家に頼らず他国でも行える「エニウェア族(Anywheres)」である上流層(富裕層)はリスク対応が可能であるが、特に自国でしか平穏に暮らせない「サムウェア族(Somewheres)」である中下流層にとっての短中長期的な災厄となる。
そのため、特に「サムウェア族(Somewheres)」である中下流層日本人は、「ふるさと納税」制度を利用することで「返礼品が受け取れて得をした!」と喜ぶ前に、「ふるさと納税」制度の仕組み(長所・短所含む)を正しく理解する必要が有る。
そして、自身が「ふるさと納税」制度を利用したのであれば、自身が「ふるさと納税」制度を是認・促進したことを意味し、「ふるさと納税の致命的欠点に起因する不利益も甘んじて受け入れる。」という覚悟を持って利用する必要が有る。

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逆累進性課税効果による高所得者と中低所得者の格差拡大促進

「累進課税」とは、下記リンク先の通り、「課税標準(租税を賦課する課税対象)が増えるほど、より高い税率を課する課税方式のこと」である。

累進課税 - Wikipedia

「逆累進課税(=逆進税)」の意味は下記リンク先の通り、「累進課税とは逆に、所得が少ない人ほど税の負担率が高くなる租税」である。

累進課税 - Wikipedia

ふるさと納税の還付・控除額の計算式は、次の①・②・③の3段階の計算手順である。

【ふるさと納税の還付・控除額の計算式】
①所得税からの還付・控除額 =
   (ふるさと納税の寄付金額-2,000円)×(所得税率[0~45%]×1.021)
②住民税からの還付・控除額(基本分)=
   (ふるさと納税の寄付金額-2,000円)×10%
③住民税からの還付・控除額(特例分)=下記[③-1]と[③-2]の内の小さい方の金額
 [③-1]=(ふるさと納税の寄付金額-2,000円)×(90%-所得税率[0~45%]×1.021)
 [③-2]=住民税所得割額×20%

上記計算手順で計算すると、いわゆる「無償の寄付金額」ではない「返礼品受取目的でお得にふるさと納税を利用できる寄付金額」となる「ふるさと納税上限額」の概算は、「会社員・公務員の給与収入/年(税引前総額)」毎に下記の通りとなる。

ふるさと納税上限額【概算】
給与収入/年
(税引前総額)
・独身
・既婚者
 (配偶者控除無;子供無)
既婚者
(配偶者控除有;子供無)
300万円28,000円19,000円
350万円34,000円25,000円
400万円43,000円33,000円
450万円53,000円41,000円
500万円61,000円49,000円
550万円70,000円61,000円
600万円77,000円68,000円
650万円98,000円76,000円
700万円109,000円85,000円
750万円120,000円109,000円
800万円131,000円120,000円
850万円141,000円130,000円
900万円153,000円141,000円
950万円165,000円153,000円
1,000万円177,000円165,000円
1,500万円384,000円380,000円
2,000万円552,000円546,000円
3,000万円1,034,000円1,027,000円
5,000万円2,056,000円2,046,000円
1億円4,316,000円4,312,000円

以下、上記について「・独身 ・既婚者(配偶者控除無;子供無)」の「ふるさと納税上限額【概算】」を「給与収入/年」毎に比較検討してみる。

【例1】
「給与収入/年」が「500万円」の場合の「ふるさと納税上限額【概算】」は「61,000円」である。
「給与収入/年」が「5,000万円」の場合の「ふるさと納税上限額【概算】」は「2,056,000円」である。
上記を見れば一目瞭然だが、「給与収入/年」が「500万円」の10倍の「5,000万円」になったのに対して、「ふるさと納税上限額【概算】」は「61,000円」の10倍の「610,000円」ではなく、約34倍の「2,056,000円」になっている。図示すると以下の通りとなる。

給与収入/年500万円→10倍→5,000万円
ふるさと納税上限額【概算】61,000円→約34倍→2,056,000円

【例2】
「給与収入/年」が「1,000万円」の場合の「ふるさと納税上限額【概算】」は「177,000円」である。
「給与収入/年」が「1億円」の場合の「ふるさと納税上限額【概算】」は「4,316,000円」である。
上記を見れば一目瞭然だが、「給与収入/年」が「1,000万円」の10倍の「1億円」になったのに対して、「ふるさと納税上限額【概算】」は「177,000円」の10倍の「1,770,000円」ではなく、約24倍の「4,316,000円」になっている。図示すると以下の通りとなる。

給与収入/年1,000万円→10倍→1億円
ふるさと納税上限額【概算】177,000円→約24倍→4,316,000円

上記の通り、ふるさと納税は、「給与収入/年」が高い者(=高額所得者)程、より高い恩恵が得られる「逆累進課税効果」が有る。この原因は、上述の【ふるさと納税の還付・控除額の計算式】①・③で登場した「所得税率[0~45%]」である。「逆累進課税効果」が有るふるさと納税に対して、下記【所得税速算表】の「所得税率」の通り、「所得金額が高い程、税率が高くなる」という「累進課税効果」が所得税である。

【所得税速算表】

所得金額所得税率控除額
0円0%
0円超~195万円以下5%
195万円超~330万円以下10%97,500円
330万円超~695万円以下20%427,500円
695万円超~900万円以下23%636,000円
900万円超~1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超~4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超~45%4,796,000円

これを踏まえて【ふるさと納税の還付・控除額の計算式】①・③、中でも③を見ると、「給与収入/年」(ひいては「所得金額」)が低い場合、[③-1]より[③-2]の金額が小さいため、[③-2]の金額で「ふるさと納税上限額」が頭打ちしてしまうのだが、「給与収入/年」(ひいては「所得金額」)が高水準になると、[③-2]より[③-1]の金額が小さいため、[③-1]の金額まで「ふるさと納税上限額」が最大限に活用できるのである。
このため、ふるさと納税は、「給与収入/年」が高い者(=高額所得者)程、より高い恩恵が得られるのである。
但し、【例1】と【例2】を比較すると分かるように、「給与収入/年」が同じ10倍で比較しても、「給与収入/年」が高い程、「ふるさと納税上限額【概算】」の倍率差は軽減されている。これは、上述の【ふるさと納税の還付・控除額の計算式】と【所得税速算表】を詳細に比較すると分かるように、「給与収入/年」(ひいては「所得金額」)が高い水準の者同士で比較すると、逆累進性が緩やかになるためである。しかし、「給与収入/年」が1億円以下の水準では、ふるさと納税に、「給与収入/年」が高い者(=高額所得者)程、より高い恩恵が得られる「逆累進課税効果」が有ることは間違い無い。

また、上記論点程の大きな「逆累進課税効果」ではないが、例えば「5,000円」のふるさと納税で「液体洗剤×4本」の返礼品が受け取れる時に、その2倍の「10,000円」のふるさと納税では「液体洗剤×10本」というように2.5倍の返礼品が受け取れる、ということもある。
こういった点にも、「給与収入/年」(ひいては「所得金額」)が高い者程、ふるさと納税の恩恵を受けられる「逆累進課税効果」が有る。

このように、ふるさと納税制度には、逆累進性課税効果による高所得者と中低所得者の格差拡大を促進する性質が有る。社会の高所得者と中低所得者の間の不公平による格差拡大を防ぐためにも、中低所得者はふるさと納税の利用を是とすべきではない。
それにも関わらず、日本人のビジネス/投資/資産運用系YouTuber・ビジネスコンサルタントに乗せられてふるさと納税を利用している中下流層は、自身にその自覚が有るか否かを問わず、ふるさと納税制度を容認している、ひいては、自身が未来も中低所得者で居続けた場合は自身の生活が苦しくなることと、自身が高所得者と中低所得者の格差拡大を容認している、ということを念頭に置くと同時に覚悟が必要となる。
つまり、現在、積極的にふるさと納税を利用している中下流層は、「無能な政治家のせいで高所得者と中低所得者の所得格差が拡大した。」といった文句は言えない。何故なら「あなたも所得格差拡大施策であるふるさと納税制度を是認・利用して格差拡大を推進した。」のだから。そもそも「あなたは政治家を責められる程の政治経済活動(勿論、国政/地方議員の選挙の投票のみではない)への十分かつ適切な参画をしていたのか?」と疑問でさえある。

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在住自治体の住民税減収による公共サービスの質・量両面の低下

具体的に示すために仮に実市名を用いて例示すると、北海道札幌市に住民票登録している甲さんが福岡県福岡市へふるさと納税すると、甲さんが北海道札幌市へ本来納付する筈であった住民税が福岡県福岡市へ寄付されることになる。
そして、北海道札幌市以外の自治体の住民から北海道札幌市へそれと同額以上の寄付がされなかった場合、単純にふるさと納税で甲さんが福岡県福岡市へ寄付した金額がそのまま北海道札幌市の住民税減収となる。
そうなると、これも当然に、北海道札幌市の保有資金が減り、北海道札幌市の公共サービスへ支出する資金の減額が必要となり、北海道札幌市の公共サービスの質または量が低下することになる。
そうなれば、北海道札幌市の公共サービスにおいて、例えば、私立小中学校の教育環境の悪化、市立公民館の閉鎖、市立体育館の会館時間の短縮、上下水道の運営管理品質の低下を招くことになる。
上記のように、ふるさと納税制度の利用には、在住自治体の住民税減収による公共サービスの質・量両面の低下を招く危険性が有る。
確かにふるさと納税者にとっては、ふるさと納税で寄付をすると返礼品が貰えて「目先では」得をしているように見えるが、その代償に、自身の在住自治体の住民税減収による公共サービスの質・量両面の低下が起こる可能性が有り、その不利益を自身が享受することになることは覚悟しておくことが要求される。そして、その低下した公共サービスの質・量が自身にとって不足であれば、当然、自身の労力・資金でそれを補わざるを得なくなり、その支出額が返礼品の時価より高額になる可能性が有ることも当然留意した方が良い。
実例としては、特に東京都は下記3点の要因から、在住自治体の住民税流出が大きくなっている。
  ①他道府県民と比して他道府県からの転入者が多い。
  ②他道府県民と比して高所得者割合が多い。
  ③他道府県から利己的思想の人間の割合が多く転入する。
東京都の場合は、上記①に関連して、「東京都の大学へ進学し、卒業後に帰省予定の大学生」のような人間が、返礼品の有無を問わずに自身の実家が有る自治体へふるさと納税をする、というのは一理有り、高所得者であれば住民税減収による公共サービスの質・量両面の低下を自身の経済力で賄えるが、特に「東京都で永住希望の中低所得者」は、利己のためにもこのことを留意しておくことが望ましい。

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自治体間の競争原理に敗れた地域の過疎化による当該地域への敵国からの侵略リスク増大

ふるさと納税利用者は、その大多数は返礼品受取による経済的利益享受という利己的目的での利用であり、寄付先自治体の行政への支援・財政難の故郷への寄付等を含めた「純粋な善意での寄付」での利用者はごく少数である。
利己的目的の人間は、経済的価値が有る返礼品を提供する自治体へふるさと納税をする。このことは、各自治体間が「返礼品」という商品・サービスによって競争原理が働く市場で鎬を削ることに繋がり、その競争に敗れた(=経済的価値が有る返礼品を提供できない)自治体は、公共サービスの質・量両面の低下が起きる。そうすると、その自治体の経済活動が衰退し、そこで収入を得て生計を立てることが困難になり、その自治体からの出稼ぎ、ひいては他自治体への転出・転居をせざるを得ない状況となる。こうなると、その自治体は過疎地となるが、他国の人間にはそのような場所は恰好の生活拠点となる。海外旅行者・難民・外国人労働者という名目で日本国へ流入した多数の外国人がその自治体へ定着すれば、「数は力」となり、外国人が日本国籍を有していなくともその自治体の実質的な自治権を有することになるのである。この外国人が日本国/日本人にとって友好的な人間であればまだしも、それが敵国/敵国人であった場合は、このような過疎地自治体に拠点を構え、その「数の力」に日本国/日本人は調和・国際協調を口実に抵抗できず/抵抗せず、野放しとなろう。これが時の経過と共に、過疎地自治体に拠点とした外国人集落は勢力範囲を拡大し、最終的には日本人が日本国内での権利を制限されることになる。ふるさと納税の返礼品の代償が「日本人(貴殿)の未来の自由な生活」だとすれば、その代償はあまりに大きいものである。
このため、私は公私両面において、原則としてふるさと納税制度の利用を推奨していない。仮に利用を勧めるとしても、政治経済の観点でのふるさと納税制度の仕組み・長所・短所を確実に相手に提示し、相手にふるさと納税制度の特性を漏れなく説明し、理解してもらった上で勧めている。

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