実例から見る「業務委託契約書」の記載等の注意事項【業務受託者向け】

ビジネス
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業務委託契約に関する前置き

令和3年(西暦2021年)現在から見て近年、正社員/正職員として日本国の株式会社等の法人に勤務する従業員に対して、副業・兼業・複業を容認する法人が増えてきた。しかし、”私の体感的には”そういった法人は知名度の有る大規模会社を中心とした全体の2割程度で、残り8割程度の法人は正社員/正職員が副業・兼業・複業をすることを認めていない。その一方で、日本国の労働基準法を始めとして法令上では法人が正社員/正職員が副業・兼業・複業をすることを禁止しておらず、法人が自身の就業規則上で正社員/正職員の副業・兼業・複業の禁止の定めを明文化したとしても、それはあくまで当該法人の独自規制であり、日本国の法令上は全く問題無いのである。
また、副業・兼業・複業禁止の法人に勤務する正社員/正職員は無論のこと、自身が勤務する法人が副業・兼業・複業を容認しているか否かを問わず、正社員/正職員がその勤務先法人自体またはその同僚に、自身が副業・兼業・複業をしていることを知られるのは、処世術としても望ましくないことが多々有る。
そこで、この場では詳細な説明を割愛するが、「自身が勤務先法人に知られずに副業・兼業・複業をする有効な方法」の1つとして、正社員・契約社員・アルバイトのような雇用契約を締結しての労働ではなく、業務委託元会社と「業務委託契約」を締結してその業務を受託する、いわゆる「業務委託」(それを請け負う側から見れば「業務受託」)という働き方が有る。
正社員・契約社員・アルバイトのような雇用契約を締結する場合はその勤務先から「労働条件通知書」を受け取る一方で、この「業務委託」という働き方では業務委託元会社と「業務委託契約書」を締結する。「業務委託」という働き方においては「業務委託契約書」は、その締結前後の過程の面でも契約書の記載内容自体の面でもいくつかの注意事項が有る。先に投稿した以下の投稿は、実際に締結された「業務委託契約書」の業務受託者本人が実名を匿名に変更する等によって機密保持したのみのもので、この【見本】を基にその注意事項を示す。
業務委託契約書【見本】 | 私の知識辞典 (my-knowledge-dictionary.com)
 URL:https://my-knowledge-dictionary.com/188/

なお、前提事項として、この事例での業務受託者は次の4点を希望してこの業務委託案件へ応募していた。
  (1)正社員・契約社員・アルバイトの月給・時給のような時間対価の安定報酬が得られる。
  (2)営業活動ではない。(本人は自身で営業活動をする当てが有るため。)
  (3)デスクワークである。
  (4)業務委託元会社の事業領域の実務経験を得る。

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報酬(会社員/公務員の「給料」に相当)の定めの注意事項

上記リンク先の「業務委託契約書【見本】」の実例では、報酬について「第4条(営業報酬)」「第5条(委託料支払)」に定められている。
この表題から一瞥で分かるように、報酬について「営業報酬」と「委託料」という2種類の名詞が登場している。

まず「第4条(営業報酬)」を見ていくと、同条1.~5.を文面通り読み解いて要約すると、「営業報酬」は業務受託者が自身で営業活動をした営業先/顧客から受注した「受注金額(売上)」から「外注費・営業諸経費等の金額(原価)」を差し引いた金額(純利益)の15%~30%の金額となるのである。
計算式で表すと次の通りとなる。
  [営業報酬]=
    ([受注金額(売上)]-[外注費・営業諸経費等の金額(原価)])×[15%~30%]
つまり、同条1.に基づくと、この業務受託者は、自身で新規開拓した顧客から売上を得ないと営業報酬が得られないのだ。
そして、同条2.~5.に基づくと、この業務受託者は、業務委託元会社において「同社へ問合せが有り、それを受けて売上を得た場合」「既存顧客の既存サービスに従事した場合」「既存顧客の新規導入サービスに従事した場合」に営業報酬を得られることになる。

次に「第5条(委託料支払)」を見ていくと、第4条で定められていた「営業報酬」とは別に「委託料」という名詞が登場する。このため、見方によってはこの業務委託契約では報酬として「営業報酬」とは別に「委託料」ももらえるようにも解釈できる。

上述の(1)の通り「正社員・契約社員・アルバイトの月給・時給のような時間対価の安定報酬が得られる」ことを期待していた業務受託者は、本件の当初の募集要項と、業務委託契約締結前の業務委託元会社の責任者との面談時の話と、「第4条(営業報酬)」2.~5.と「第5条(委託料支払)」の定めを自身の都合の良いように拡大解釈して、てっきり月給・時給のような時間対価の安定報酬が得られるものと期待し、業務委託契約を締結したのだが、その後の本件の業務オリエンテーションにおいて時間対価の報酬額やその振込時期の説明等が全くされず、新規顧客への営業方法とその際に使用するツールの説明がひたすらされるのみであった。そのため、この業務受託者は、より正確に報酬体系を教えてほしいと業務委託元会社の責任者へ訪ねたが、「それは活動報告書を作成する時に説明します。」というのみで、度々その場をはぐらかされた。そこで、時を改めて業務受託者は、この業務委託契約が「実質的な成果報酬なのか」「実質的な営業職なのか」と明確に尋ねたところ、どの通りであるという回答であった。そのため、この業務受託者は当業務委託契約の解除を申し入れる結果となった。
この業務受託者も、業務委託契約書の「業務委託契約書」の文面を期待を込めて自身の都合の良いように解釈していたことは問題ではあるが、このような場の経験の無い者が初めて短期間で「業務委託契約書」を提示され、かつ、その文面が分かりにくく曖昧な表現を用いられていては、その文面を即座に解釈して対応するのは難しいとも擁護できる。

上記事例から得られる「報酬(会社員/公務員の「給料」に相当)の定めの注意事項」は、次の4点である。
  ①「営業報酬」「委託料」のような名詞の定義(意味)を明確にする。
   この際に、できるだけ、それら名詞の定義を「業務委託契約書」の文面に明示してもらって契約締結する。
  ②「報酬額」の計算式を明確にする。
  ③「成果報酬」なのか「正社員・契約社員・アルバイトの月給・時給のような時間対価の報酬」なのか、報酬形態を明確にする。
  ④上記①~③に関する不明点を業務委託元会社の責任者へ質問しても明確な回答をしてもらえない場合は、その業務委託元会社自体が信用できないと判断し、業務委託契約を締結しない/解除する。

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経費の定めの注意事項

上記リンク先の「業務委託契約書【見本】」の実例では、経費について「第3条(業務経費)」「第4条(営業報酬)」に定められている。
これらの中で、経費について「業務経費」と「原価」という2種類の名詞が登場している。
まず「第3条(業務経費)」1.では、「業務経費」を「電話料、宅急便、文具、コピー、カタログ、名刺、光熱費、環境設備等」と定義しており、この「業務経費」は甲(業務委託元会社)が負担すると定められている。一方で「第4条(営業報酬)」1.~3.では「原価」を「外注費や営業諸経費等」と定義しており、この「原価」は簡単に言えば営業報酬から差し引かれることになり、実質的に業務受託者が負担することとなる。
上記のように「業務経費」と「原価」の定義を並べると、例えばこの業務おいて発生した「電話料、宅急便、文具、コピー、カタログ」等は、その利用用途や状況によって「業務経費」とも「原価」とも解釈出来得ることになる。

上記事例から得られる「経費の定めの注意事項」は、次の4点である。
  ①「業務経費」「原価」のような名詞の定義(意味)を明確にする。
   この際に、できるだけ、それら名詞の定義を「業務委託契約書」の文面に明示してもらって契約締結する。
  ②「業務委託契約書」の文面の解釈によって、経費が「業務委託元会社負担」とも「業務受託者負担」とも解釈できる場合は、「どのような場合に」「どのような経費を」「誰が負担する」を明確にする。
  ③上記①~②に関する不明点を業務委託元会社の責任者へ質問しても明確な回答をしてもらえない場合は、その程度も勘案した上で熟慮し、その業務委託元会社自体が信用できないと判断した場合は、業務委託契約を締結しない/解除する。

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上記を踏まえた「業務委託契約書」締結前後の交渉時の注意事項

「業務委託」の求人におけるいわゆる面接は、正社員/正職員の採用試験における枝葉末節まで厳格な面接とは異なり、「面接」というよりも「面談」あるいは「交渉」といったテイストで、礼節は必要ながらもざっくばらんに話せることから、あえて極論すると、その雰囲気はアルバイトの採用面接に近いものがある。このことから、正社員/正職員が副業・兼業・複業として業務委託を請け負う場合は勿論のこと、個人事業主として事業活動している者も一般と比べて目的意識が明確な場合が多いことを踏まえると、「業務委託契約書」を締結する前の面接/面談の段階から、自身がその業務委託求人へ応募した動機、その業務を通じて実現したいこと、求める待遇等々を積極的に業務委託元会社へ伝えるのが望ましい。これらを積極的に伝えることで自身への心象が悪くなるのではないか、という懸念を持つであろうが、「自身への心象が悪くなること」よりも「自身の希望に沿わない業務委託契約を継続すること」の方が、業務委託元会社と業務受託者の双方にとって非効率な時間となることを考えれば、それを予防する意味でも意義有る対応である。そして、その交渉が成立しなければ、別の業務委託求人を探して応募すれば良いのである。

従って、上記において述べた内容を全て集約すると、上記事例から得られる「『業務委託契約書』締結前後の交渉時の注意事項」は、次の6点である。
  ①「業務委託契約書」締結前の面接/面談の段階から、自身がその業務委託求人へ応募した動機、その業務を通じて実現したいこと、求める待遇等々を積極的に業務委託元会社へ伝え、相互のミスマッチを防止し、時間や労力のロスを無くす。
  ②「業務委託契約書」に記載されている名詞の定義(意味)を明確にする。
   この際に、できるだけ、それら名詞の定義を「業務委託契約書」の文面に明示してもらって契約締結する。
  ③「報酬額」の計算式を明確にする。
  ④「成果報酬」なのか「正社員・契約社員・アルバイトの月給・時給のような時間対価の報酬」なのか、報酬形態を明確にする。
  ⑤「業務委託契約書」の文面の解釈によって、経費が「業務委託元会社負担」とも「業務受託者負担」とも解釈できる場合は、「どのような場合に」「どのような経費を」「誰が負担する」を明確にする。
  ⑥上記①~⑤に関する不明点を業務委託元会社の責任者へ質問しても明確な回答をしてもらえない場合は、その程度も勘案した上で熟慮し、その業務委託元会社自体が信用できないと判断した場合は、業務委託契約を締結しない/解除する。

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